医療保険に入るようなひと

心筋梗塞や脳梗塞などの大病を患わずらえば、100万円単位でお金が飛んでいくと漠然と思っているかもしれません。しかし実際には、このくらいで済んでしまうのです。
 とはいえ、「安い!」と小こ躍おどりするほどの金額ではありません。「20万〜30万円ならなんとかなる」というひとはいても、「50万円」と言われると、右から左にとはいきません。とくに家のローンが残っていたり、子供の教育費が重たい40代、50代のサラリーマン家庭には、苦しい出費となりそうです。

 

 

 また入院すると、医療費だけでなく、食費(入院時食事療養費)もかかります。1食当たり460円、1日(3食)では1380円です。
 医療保険のパンフレットには、「入院中の食費も意外とかかる」といったことが書かれています。しかし、それを言うなら健康なひとでも、家に居いようと外出していようと、やはり食費はかかります。入院中の食費を医療費の一部と捉えるのは、あまり合理的とはいえません。
 ともかく、一生に一度あるかないかの大病に罹れば、入院だけで数十万円の費用がかかるかもしれないわけですから、不安に思うひとが出てくるのは当然です。そして、そんな不安を和やわらげてくれる(?)のが、民間の医療保険というわけです。
 なかでも終身医療保険は、現役のうちに保険料を払い終えれば、死ぬまで面倒をみると言ってくれているように思えます。それに乗らない手はないのではないか──そう考えるひとが後を絶ちません。

 

 しかし冒頭で述べたとおり、日本で普通の医療を受ける限り、健康保険だけで基本的には十分です。健康保険に入っていさえすれば(もちろん国民皆保険ですから、全員が入っているわけですが)、一生涯保障が続く、つまり、どんな病気やケガで入院しても、家計が著いちじるしく傾くほどの損失を被こうむることはないのです。
 ウソだと思いますか。
 だとしたら、医療費が払えずに自己破産したひとを、あなたは何人知っていますか。少なくとも、私のの親戚や友人・知人のなかに、医療がもとで自己破産したというひとは皆無です。

 

 なぜなら健康保険には、「高額療養費制度」という第2のセーフティーネットが用意されているからです。
高額療養費制度の効果は大きい
 高額療養費制度をご存じの方は多いと思います。少なくとも、この言葉くらいはどこかで見聞きしたことがあるはずです。
 この制度は、健康保険に組み込まれている第2のセーフティーネットです。第1は言うまでもなく、患者本人負担が医療費の3割以内(70〜74歳は原則2割、75歳以上は1割)で済むということです。

 

 もちろん、3割負担といえども数十万円、時には100万円を超える負担を強いられることもありえます。そこで、病院への1ヵ月間の支払いが一定の限度額を超えた場合には、超過分の医療費をほとんどタダ(超過分の1パーセント)にしてしまおう、というのが高額療養費制度の要点です。
 限度額は個人ではなく、世帯にかかります。つまり、一家全体の医療費が限度額を超えていれば、制度の適用を受けられるのです。
 限度額は、所得に応じて5段階に設定されています。70歳未満のひとの場合、たとえば年収約370万〜約770万円なら、<8万100円+(医療費−26万7000円)×1%>となっています。
 この所得区分に該当するCさんが、虚血性心疾患で入院し、総額80万円の医療費がかかったとしましょう。もし高額療養費制度がなければ、Cさんは3割の自己負担と考えて、病院に24万円を支払うことになります。しかし、この計算式に当てはめると、8万100円+(80万円−26万7000円)×1%=8万5430円で、結局、80万円の医療費がかかったCさんの自己負担は、「8万5430円」で済むのです。
 ただし、入院中の食費には、この制度は適用されません。また本人の希望で個室など「差額ベッド」を選択した場合は、その料金も払う必要があることは言うまでもありません。ただし治療上の理由など、病院側の都合で個室に入ることもよくあることです。その場合は、差額ベッド料はかかりません。
 高額療養費制度があるおかげで、Cさんと同じ所得区分のひとでは、1ヵ月の支払いが9万円を超えるようなことはほとんど考えられません。しかも1年間のうち、限度額を超える月が3回以上あった場合、「多数回該当」といって、さらに大幅値引きの対象になるのです。

 

 治療が順調に進んだCさんは、1週間程度で退院し、自宅で2〜3週間療養したあと、社会復帰を果たすことができました。退院後は、最初のうちは毎月1回の通院が必要になるはずです。その医療費(本人負担)は、薬代も含めて1回当たり数千円から1万円です。そして徐々に、2ヵ月に1回、3ヵ月に1回と、通院の回数も減っていくはずです。もちろん、処方される薬も減ることでしょう。
 最終的にCさんの自己負担は、初年度で15万〜20万円程度(入院+毎月の通院)、2年目以降は数万円(年数回の通院)ということになります。

 

 実は、現役の医師の多くが「どんな病気でも、社会復帰や家庭復帰までの医療費は50万円で済む」と言っています。
 心臓移植でさえ、日本国内なら100万円を大きく超えることはないでしょう。なぜなら健康保険の枠内で受ける限り、高額療養費制度が適用されるからです。また、移植患者はもともと重症のため障害者手帳を持っているケースがあります。その場合は、重度心身障害者医療費助成制度を利用することで、医療費の自己負担をさらに軽減させることができます。