『家計の金融行動に関する世論調査』

2012年に「貯蓄なし」と答えた世帯は全体の26%にも上ります。「4世帯に1世帯は貯蓄がゼロ」ということです。
 まず年齢別に見ると、どの年代でも貯蓄ゼロの家庭は20%を上回ます。特に現役世代に貯蓄ゼロが多く、50代家庭では29%にも上るのが特徴的です。50代には子どもが大学生、高校生という家庭が多く、教育費の負担に苦しむ姿が浮かび上がます。
 さらに収入別に見ると、驚くべき事実が判明します。年収が高くても貯蓄ゼロという家庭が想像以上に多いのです。年収1000万〜1200万円未満の世帯の11・4%が貯蓄ゼロ、年収1200万円以上という世帯でも5・1%は貯蓄ゼロです。年収が低いほど貯蓄ゼロの世帯が多いのはしかたのないことでしょう。ですが、年収1000万円もあるのに貯蓄ゼロというのは問題です。高収入家庭にいったい何が起きているのか?
 実は、貯蓄ゼロの世帯は、以前ははるかに少なかった。
 図表4を見てほしい。1990年代前半まで貯蓄ゼロの世帯は10%以下で推移してていた。それが96年に10%を上回り(93年に一度10%を超えています)、2003年に20%をも超えました。そして、今や30%に近づこうとしています。

 

 

 これと時期を合わせ、まったく反対の動きをしているのが平均年収です。国税庁『民間給与実態統計調査』による男性サラリーマンの平均年収は、97年の577万円をピークに下がり続けています。
 収入が下がると家計は節約に取り組むが、それでも足りなければ貯蓄を取り崩すしかないです。そして貯蓄が底をつく家庭が次々と増えていく。その結果が貯蓄ゼロ世帯の増加という数字になって表れています。

 

 前述の金融広報中央委員会の調査では、貯蓄が減少した人に対してその理由を質問しています。最も多かったのは「定例的な収入が減ったから」という答えで、43・8%の人が理由として挙げています。次は「耐久消費財の購入」30・4%、「子どもの教育費」26・2%となっています。耐久消費財の購入や教育費なら、計画的に準備することでクリアできます。ですが、収入の減少に対してはそうはいかないです。これに対応するには、しっかりと貯蓄を増やしておくしかないです。貯蓄に余裕があれば持ちこたえる時間が稼げるし、その間に妻が仕事に出るなどの対応策を講じることもできます。貯蓄はこうしたときに家族を守るための保険ということもできるのです。
 とはいえ、年収1000万円もあれば、収入が少しぐらい減ってもそれほど困らないのではないか? と考えるのが当然でしょう。

 

 年収が多い家庭は、本来ならそれだけ節約の余地があるはずです。ですが、年収が増えれば相応に生活費も膨らむのが普通。まして年収が1000万円ともなれば、「自分は他人とは違う」という見栄もあります。もし固定費をどんどん膨らませているようなら、家計を縮小するのに大手術が必要になります。
 たとえば一等地のマンションを買い、ローンをめいっぱい組んでいれば、年収が下がるとすぐに払えなくなってしまう。また、子どもを私立に通わせていれば、辞めさせるのは忍びないです。そこまでなら理解もできるが、なかには「外国車を国産車に乗り換えるのはみっともない」「引っ越すと世間体が悪い」「子どもに生活が苦しいことを知られたくない」など、家計破綻の危機に瀕してまで見栄にこだわる人もいます。こうした人に限って、貯蓄が少ないです。そこで意地を張って借金に手を出すと、家計は破綻に向かってまっしぐらに落ちていく

 中途半端にリッチな家計が実は危ないです。家計に問題があっても、何も起きなければ家計はなんとか回ってしまう。病巣を抱えたままやり過ごしてきた家計は、危機への対応力が弱く、収入ダウンが引き金になって問題が噴出しやすい。もしそうなったときには、年収が高い家計ほどダメージも大きい。
 膨れあがったメタボ家計は逆境に弱い。年収700万円を超えてきても、支出を膨張させないように普段から管理して、筋肉質の家計をつくっておかなければなりません。
 20ページで家計シミュレーションを行った吉井家のケースでは、条件設定のうえで楽観的なところがあります。それは「給与が年2%上昇する」としている点です。吉井さんが旧財閥系の安定した企業に勤めているのでこのように設定したのですが、一般的にはもっと低いと考えるべきでしょう。
 2013年に入り、景気はやや持ち直したように見られています。「大手企業がボーナス満額回答」といったニュースも報じられ、自分の給料も上がるのでは? と期待する人もいるかもしれないです。

 

 ですが、上がるとしてもごく一部の企業のみでしょう。それも、政府の要請を受けた一時的なもので、ほとんどの企業で給料は上がらないと考えたほうがいいです。今回、一時金の額を上げてもベースアップを行っていない点からも、そのことは明らかです。
 国際競争力を失いつつある日本では、どの企業も生き残りに必死です。利益を守るため、人件費の削減はもう当たり前になっています。TPP参加によりさらにグローバル化が進めば企業はますます国際競争にさらされ、人件費削減には拍車がかかります。すなわち、サラリーマンの給料にとっては下落圧力となります。
 また、65歳までの雇用を義務づける雇用延長制度も給料には下落圧力です。高齢者の雇用を増やせば、どこかを減らさなければなりません。となると、削るのはより若い社員の雇用や賃金になります。

 

 終身雇用制度も年功序列制の賃金体系も崩壊し続けています。現在、掲げられている「雇用の流動化」というスローガンも、裏を返せば「人件費削減」です。企業はできるだけ人件費を減らしたいと考えます。ですが、リストラが一般的になったとはいえ、社員を辞めさせるのはそう簡単にはいかないです。「雇用流動化」という国策のおすみつきをもらえば、企業は今後、胸を張って人を切ることができるわけです。